煉獄屋敷の魑魅魍魎



『煉獄屋敷の魑魅魍魎』

(序文)

私・張退作、畢生の渾身作が、ここに完成した。
最後の1行を書き終えた今、もうこのまま
作家生命を終わらせてもいいと思ったほどだ。

この作品は、ミステリを愛する人々が求める、
ありとあらゆる要素をすべて注ぎ込んだ一大叙事詩である。

煉獄屋敷と呼ばれる古く、巨大な洋館を舞台に、
そこに集った奇人・怪人たちが繰り広げる狂乱の宴。

いまだ前例のない大胆な物理トリックの20連発。
SFやファンタジー、ホラーなど、他ジャンルの要素も盛り込み、
まさにエンターテインメントの大伽藍となったのではないか。

そして、私が創造した名探偵・張井呆太が華麗なる復活を遂げる。
彼の帰還を歓迎してくれる読者も多いことであろう。

400字詰め原稿用紙にして、10万7000枚という、
文字通りの超大作になってしまったが、この長さは
物語そのものが作者である私に求めてきたものだ。
決して読者を飽きさせたり、退屈させたりすることはないと、
自信をもって保証しよう。

それでは、絢爛豪華なミステリィの魔窟へ、
みなさまをご招待いたしましょう。

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『煉獄屋敷の魑魅魍魎・第1部第1章プロローグ』

 それは1通の手紙から始まった。
 探偵業を引退し、山形で酒屋を営む私・張井呆太のも
























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(あとがきにかえて)


……。
……。
……。
……ハードディスクがクラッシュして……。
データが……10万7000枚分のデータが……。

バックアップをとってあったのが、
まさか本編2行目までのみだったとは……(号泣)。

もう私には再び書き直す気力どころか、
この先、執筆活動を続けていくわずかな力も残っていない。

みなさん、さようなら。



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かつて張退作の覆面をかぶってくださった文豪さまmoko2.さま
心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
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# by chotaisaku | 2005-12-09 20:11

美女たちの饗宴

第2回上清水賞開幕いたしました。


その島は、伊豆半島の沖合い数十kmのところにあった。

一時間もあれば一周できるような船着場も一箇所しかない小さな島で、名前は“清香島(きよかじま)”と言う。

島にまつわる伝説は昔からいろいろあった。
江戸時代には当時の幕府の金庫番が徳川の財宝を隠したという話があり、その後、海賊の根城になったという噂が広まっていた。
昭和に入ってからは、原因不明の熱病にかかり熱に浮かされたまま伝家の宝刀で家族を斬り殺したその地方の豪商が、一族のものによってその島に建てられた屋敷に幽閉されていたという話も伝わっている。

しかし、現在では何もない静かな島になっていて、最近では意外なことに観光客も訪れていた。
というのも、目立つ建造物といえば、島の中央に建っている古い洋館を改良したホテルくらいで(このホテルが、件の豪商が閉じ込められていた屋敷だったという噂もある)、手つかずの自然が多く本土ではあまりお目にかかれない動植物が生息しているため、ただひたすら自然を愛でながらのんびりしようとする人々の関心をひいたからであろう。


そして、この島で事件は起きた・・・





もうすぐ桜の咲く頃だというのに、風はまだ冷たい。

私、張大作は電車に乗って伊豆のとある漁港に向かっている。
本当なら今日はいつも使っているホテルの部屋で会うことになっているアサコが来る時間までに締め切り間近の原稿を書こうと思っていたのだ。
それなのに、なぜ自分は今電車に揺られて伊豆へ向かっているのか・・・。
それもこれも朝っぱらからかかってきた電話のせいだった。

電話の主は・・・上清水一三六

「張先生?寝てた?実は今日どうしても行かなきゃいけない仕事があるんだけど昨日からインフルエンザのA型とB型にいっぺんにかかっちゃって動けないの。
代わりにその仕事に行ってくれない?
仕事っていうのは『美女たちの集い』の特別ゲストなんだよね。どうしても穴をあけられないし、俺レベルの代わりと言ったら張先生くらいしかいないからさ。ホントお願い、頼みます。
治ったらこの埋め合わせは必ずするから!」

ここまで頼まれると断りにくいというものだ。
『美女たちの集い』というのにも食指が動いたのいうのもあるが・・・。
ミス・コンテストの審査員のようなものだろうか?なんにせよ美しい女性たちを見られるのは目の保養にもなる。
そうしてアサコとの逢瀬を先延ばしにして伊豆に向かうことにしたわけである。

伊豆の沖合いに浮かぶ島の洋館のホテルを丸ごと借り切って行われる集いということでゲストたちはチャーター船に乗って島へ向かうことになっていた。
上清水に教えられた駅で降りて漁港まではタクシーで向かう。

「同じ船に乗るゲストたちが漁港に集まってるはずだ。たぶんすぐにわかると思う。普通っぽくない集団だから。ハハハ」

普通っぽくないということは有名人ばかりなのか?
『すぐわかる』という言葉を信じていいのかどうか不安に思いながらタクシーの窓から海を見る。
ぽつんと浮かぶ島が向こうの方に見えた。

「あれが清香島かな?」ひとりごとのつもりでつぶやいたが運ちゃんが答えてくれた。

「そうですらい。あれが清香島よ。昔、あそこの地主が建てた洋館くらいしか建物もないくらいやけどな。あ、ここ曲がったら漁港ですけん。」

タクシーを降りて漁船が泊まっている方に向かって歩いていった。
チャーター船らしきクルーザーを探してみるが見つからない。
きょろきょろしていると視界の端に男性数人が固まっているのをとらえた。

「あ、あの人たちかな?」

とそちらの方へ向かっていくと、近づくにつれ普通じゃない集団ということがわかった。

「上清水の言ったのはこれか・・・」

そこにいたのは5人だったが5人とも明らかに普通ではなかった。

「あ、張先生ですか?上清水先生から電話で聞いてます。」中の一人から話しかけられた。
「しかし上清水先生もうまく逃げましたね。後でおそろしいことにならなければいいんですけどね・・・」


___________



清香島の古い洋館のホテルでは美女たちの楽しい集いが始まっていた。

(順不同)
やみくもな美女チャイナドレスの美女北の大地の美女ピカチュウな美女Aカップの美女,白い山奥の美女カエルの美女公園でお散歩の美女しんぞうの美女ワシントンの美女太陽のようにでかい美女・・・etc

『ミスコンテスト』ではなくオフ会なのである。

「遅いわね~」
「そろそろ着く頃じゃない?」
「誰か迎えに行かなくてもいいかしら?」
「船降りたら建物が見えるんだから迷ったらバカよ」
「それもそうね~」
「じゃ来るまでにもう1杯やってましょっか」
「いいね~!」
「カンパ~~イ!!」

ランチの時間帯だというのにすでに出来上がってる人までいる美女たちだった・・・

「あ・・・来た、来た~!!」
「おっそいじゃ~~ん!」
「あ、ぽふちゃんよ!やっぱぽふぽふしてるわねっ!」
「きゃ~~!カツオッティったらカツオじゃん!本物のカツオだよ~(笑)」
「ぎゃはは!一休ってば肩に鳩乗せて来てるよ。律儀だねぇ」
市長!!ちょっとこっちに来て施政方針演説でもしなさいっ!」
しすこ侍!!しょうもないネタ言ったら罰ゲームだからね!」

美女たちが口々にゲストに好き勝手な言葉をかけ始め、張大作は戸惑うばかりだった。

『確かに美女は美女だが・・・これは一体・・・???』

その時

「あれ??上清水先生は?」
「ホント。いないわね」
「あら?そちらの方は?」

「あ、上清水先生は急病で代わりに急遽張大作先生が来てくださいました。」
市長と呼ばれた男性が答える。

「きゃ~~!!ミステリー界の大物に会えるなんてラッキー!」
「上清水先生ったら私たちにおそれをなして仮病使ってんじゃないの!?」
「そうかも!上清水先生は休んだお詫びに全員に寿司おごりで許すことにしましょ」
「寿司食べれる上に張大作先生に会えるなんて一石二鳥!」
「美女に会えるのに仮病なんて失礼するわね~!」

勝手に仮病にされたうえに勝手に寿司をおごる羽目になっている上清水のことを気の毒に思ったりもしたが、その後、仮病を使いたくなった気持ちを理解した張大作だった・・・。

その日は夜がふけるまで長かった。いや長く感じた。
美女軍団のパワーは圧倒的で、食べるのも飲むのもノンストップ、しゃべりは弾丸のような勢いが衰えることはなく、合間に踊ったり、倒したり、漫才したり、ととどまるところを知らない。

ゲストというのはゲストというよりも「いたぶられて」いた。
    
「歌え」と言われて歌えば「ヘタね~」と笑われ、「踊れ」と言われて踊れば「下品ね~」と眉をひそめられ、「芸をしろ」と言われて一発芸をすれば「つまんな~い」とそっぽを向かれ・・・その間にお酒のお酌、肩もみ足もみなどのマッサージ、そしてもちろん「きれいですね」という一言。
機嫌を損ねたら貞操どころか身体さえ危ないという危機感がゲストたちを必死にさせていた。
張大作も面識のない美女軍団たちを必死にもてなし、宴がお開きになる頃には疲労困憊していた。

「みなさん、そろそろお部屋に戻りましょうか」
「そうね。あとは各自のお部屋で・・・ということで」
「明日は朝7時に露天風呂集合よっ!!」
「きゃ~!温泉オフね!」
「小胸の方だけじゃなくグラマーさんもOK?」
「もちろんよ~!美女なら誰でも参加できま~~す!」

「あっっ!男性たちはダメよ!!ノゾキなんてしたらただじゃおかないから!!」

『はいはい。間違ってものぞく気なんておきません。』
そう思ったが口には出せない張大作だった。他のゲストたちも疲れきった顔で返事もしない。


女性たちは一人一部屋だったが、部屋数が足りないということで男性は6人(4人+1わ+1尾)で一部屋だった。
しかしそんなことなどもうどうでもよい。疲れた身体を一刻も早く休めたかった。
部屋に入るなり会話もなく倒れこむように横になった6人だった・・・。


__________



翌朝


「ちょっと!!起きなさい!!!」
「この下着ドロ!!」
「わかってんのよ!この中に犯人がいるってことは!!」

怒り狂った美女軍団に叩き起こされた。
寝ぼけた頭には何がなんだかさっぱり分からない。周りで寝ていた他の5人もそのようだった。

「私たちが楽しく露天風呂に入ってる間に脱衣所に入ったのは誰?」
「早く盗んだ下着出しなさい!」
「こっそり売りさばいたら承知しないわよ」
「今日のための勝負下着高かったんだから!」
「私のパンツで変なことしないでしょうね?」

全員が口々にまくしたてるものだからよく聞き取れない。何か起こったのか!?

「あの~・・・話がさっぱり分からないのですが・・・説明してくれませんか?」
あっけに取られている市長・侍・一休・ぽふ・カツオの一歩前に進み出た私が尋ねた。

「だから、さっき私たちが露天風呂に入っている間に誰かが私たち全員のブラジャーとパンツを盗んでいったの!」

これはまた酔狂な泥棒がいたものだ。彼女たちの下着を盗もうなんて・・・なんとおそろしい。
しかし私と他の5人はたたき起こされるまでこの部屋で寝ていたのだ。少なくとも私はそう思っていた。
しかし『全員寝ていた』という言葉は到底信じてもらえないような・・・そんな剣幕の彼女らに2日目も長くなりそうな予感がしていた。

「こいつらが逃げないように順番で見張りを立てましょ」
「そうね。窓とドアに見張り番ね」
「手荷物を調べてみなきゃ」
「服の中に隠してるかもしれないから脱がしてみる?」
「きゃ~~!でもぽふちゃんとカツオッティは何も着てないものね。」
「そうね。じゃ残りの4人ね。」

犯人の濡れ衣を着せられたうえに裸にまでされるのか!?
このままでは犯人が見つかるまでに何をされるかわからない。

「すみません・・・。トイレに行ってもいいですか?」
「ええ。どうぞ。ここのトイレはユニットバスだから窓もなくて逃げられないし」

急いでトイレに入る。携帯をズボンのポケットに入れたまま寝ていた。
用を足す振りをしながら急いでメールを打つ。


『SOS!清香島に来てくれ!』


慌てすぎていたので上清水に送ったつもりのメールがアドレス帳の『あ』行の一番上の人物に送ったという事に張大作が気付くのはだいぶ時間が経ってからだった。



後編につづく


注)美女軍団の仲間入りしたいという方はコメントで知らせてくれればエントリー期間中でしたら
その都度編集で足していきます。
男性ゲストについては固定メンバーにさせていただきます。



**********第2回上清水賞テンプレ**********
【ルール】
 2人1組で参加する覆面ブロガー同士の、ミステリィ創作作品によるタッグ戦(ダブルス)です。

  参加の流れは、以下の通り。

  1・一緒に参加するパートナーを探す
  2・トラバ作品の導入部(事件編)を受け持つか、解決編を受け持つか
   、2人で相談して担当を決める
  3・前半部担当者が、この記事にトラックバックする
  4・後半部担当者が、前半部の記事に解決編をトラックバックする

1人目は上清水から出されたお題を踏まえて、舞台となる清香島で
事件を発生させて(謎を提示して)ください。
2人目は、その事件の解決部分を書いてください。
前回と違い、前半部が出揃ってから後半部がスタートするシステムではなく、
エントリー期限中に両方ともTBを完了させてください。
前半・後半の同時TBももちろんOK。

なお、ご参加の際にはタッグチーム名も用意していただければ幸いです。
 
 エントリー期限は本日から3月31日(木曜日)23:59までです。
 
 【審査方法】
 ●巨匠・上清水一三六が自ら最優秀作品を選出。
    その他、場合によっては部門賞もあり。
 
 ●参加条件はすべての覆面ブロガーによるチーム。

  「覆面ブログ」の定義は、通常メーンで記事を書いているブログ以外
のブログ。
そして、書いている人間の正体が通常ブログと同一人物であることが
〝バレていない〟と自分で確信していることです。自分でバレていないと
信じていれば、実際にはバレバレでもかまいません(笑)。

  TB人数制限はありません。原則として1チーム1TBですが、パートナーが
異なる場合には別チームとみなしますので、相手を替えれば何作品でも
TB可能です。また、覆面さえ別のものに着け替えれば、中の人同士が
同じ組み合わせでもかまいません。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペお願いします。

 ★会場   激短ミステリィ    
 http://osarudon1.exblog.jp

**********第2回上清水賞テンプレ**********
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# by chotaisaku | 2005-03-22 18:44

芽衣子と北斎(女と絵画のミステリー・後編)

芽衣子と北斎(女と絵画のミステリィ)

白と赤のコントラストの中、
私は一糸まとわぬ姿で立ち尽くしていた......


私は、懸命に自分に言い聞かせる。

落ち着け、落ち着け.....

人間は思いもよらない事態に直面すると、容易に思考を停止する。
今は、考えることを放棄してはいけない。逃げてはいけない。
震える足取りで、もう一度バスルームに引き返し息を整える。

落ち着け、落ち着け、落ち着け.....

言い聞かせるように繰り返すが、身体の震えが止まらない。
蛇口をひねり、熱いシャワーをもう一度浴びる。

誰が男を殺したのか......
彼がバスルームを出たのは、私よりほんの少し前だ。
部屋の中で息をしていた人間は、私と彼しかいなかった。
ホテルの部屋はオートロックで外から入るのは不可能だ。

私は手早く濡れた髪を乾かし、ついさっき男が外したばかりのスーツのボタンを締める。
指が震え、うまくボタンがかからない。

考えろ、考えろ、考えろ、考えろ......

私は、ずっとこの日を待っていたはずじゃ無かったか。
男の死によって、計画に狂いが生じた。
だが、今それは大した問題ではない。
必ずやり遂げろ.....
私は、ずっとこの日を待っていたんだ。




そう、

私は、もう一人の「Miss.トキタニ」だ。




「トキタニ」は、美術品業界で知らぬものは無い伝説の存在だ。
一方で、口汚い連中は「トキタニ」のことを”魔女”と罵る。
”魔女”....その通りかもしれない、と私は思う。

魔女は素顔を誰にも見せない。

独自の情報網とコネクション、
神秘のベールに包まれた美貌と身体、
何よりも、薄汚い謀略を生み出すその頭脳、
そして、
有利な取引を引き出すために、誰とでも寝る絶世の美女、

そういった噂を身にまといながら、
”魔女”は途方もない財産を築き上げる。

その美貌に陰りが見えてきた頃、
”魔女”は自分の値段が下がったと見るや、
付加価値として、より高く売れる「私」を男たちに差し出す事を考え出した。
付加価値の分だけ、美術品は安く仕入れることができ、高く売れる。
それから私は、数々の名前も知らぬ男たちに身体をあずけてきた。
私は「トキタニ」に命ぜられるままに、取引の場に出向き、
「トキタニ」が命ずるように、男たちを満足させた。

そして「トキタニ」の美貌の伝説に、「若さ」が加わった。

このホテルのロイヤルスウィートルームには、ベッドルームが2部屋ある。
取引の時、「トキタニ」はいつもそこで息を潜める。
この取引で、どれだけ美術品の価値が引き上げられるか勘定しながら.....
彼女にとって美術品は単なる投機の対象でしかない。

そして彼女にとって、私も単なる付加価値の対象でしかない。




私の名前は「トキタニ メイコ」。

そう、

「トキタニ」は二人いる。

そして、私が、

もう一人の”魔女”......



私はバスルームを出る
赤い春画に囲まれた男が横たわる部屋を通り抜け、もう一つのベッドルームに向かった。
そこに、かつて”魔女”だった「トキタニ」が横たわっている。
首には、つい1時間前に私が力をこめたベルトを巻きつけたまま....
生きている証のないその顔は、驚くほど私に似ている。
私は、もう一度”魔女”の首筋に手を当てる。
ひやりとした感触以外、なんの振動も伝わってこない。

大丈夫、魔女は蘇っていない。
もうすぐ私は自由になれる。

最初の計画では、男を睡眠薬で眠らせて私だけホテルから出て、
男が「トキタニ」を殺したように見せかけるつもりだった。
しかし、男が謎の死を遂げたことで計画が狂った。
私は万が一のために用意していた、サバイバルナイフをバックから取り出した。
指紋がつかないように手袋をはめ、注意深くナイフの柄を握る。
男をこれで刺し、それを死んでいる「トキタニ」に握らせる。
そして私は、このホテル特有の地下駐車場に直結するエレベーターを通って外にでる。
これで計画は成功だ。

大丈夫、もうずいぶん落ち着いている・・・

私は赤い春画に囲まれて倒れたままのオトコの背中に、力の限りナイフを振り下ろした。


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張退作はそこまで一気に書き上げると、一息ついてイスに深くもたれかかった。

まったく、ばかげている。
死んだはずの青薔薇かをるから、新しいミステリーが届いただと?

最初は、悪い冗談か出版社が話題作りのためにやっているのだろうと思っていた。しかし、ネットに掲載された作品を見て目を疑った。美術絵画をテーマにした作品、主人公の描写、どれをとっても青薔薇かをるの作風に間違いない。しかし、ヤツはとっくに死んでいる。遺作も全て整理され、残っているはずもない。では、誰がこれを書いたというのだろう?マスコミはこぞって犯人探しをやり始めた。しかし、匿名ネット上に投稿された作品から、作者の素性を洗い出す作業は徒労に終わった。

それと同時に、作品の続きが読みたいという読者からの投稿が出版社に殺到した。続きを書く依頼は、上清水ではなく私に来た。その選択は間違いないであろう。私ならこの主題から、壮大な物語の序章を導き出すことも可能だからだ。最初の部分を書き上げたのが誰であろうと、傑作ミステリーに仕上げる自信があった。読んだ瞬間の浮かんだ「二人のトキタニ」という発想は、書き進めていくにつれどんどん広がっていった。

その時、机の上の電話のベルが鳴った。
「張先生、大変です!!」
担当記者からの電話だった。
「どうした?」

「青薔薇先生から、話の続きが投稿されてきました!!」

「なに!!」

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芽衣子はこみ上げてくる笑いを抑えきれずにいた。

トキタニが全裸のまま、慌ててホテルの部屋から逃げ出す情景を想像していたからだ。
あの高慢なオンナが慌てふためく姿を想像すると、愉快でたまらない。
地下駐車場からスイートルームに直結するエレベーターの中で、また頬が緩む。

美術ブローカーのM、いや、芽衣子はずっとこの日を待ち望んでいたのだった。

正確に言うと、ブローカーだったのは芽衣子の父親であった。
父は芽衣子が学生のとき、トキタニに騙され法外な負債を背負った。
巨額の負債に耐え切れず、優しかった父はビルから飛び降りた。
父と私たち家族の幸福な生活は、トキタニに騙し取られたと言ってもいい。
その時から、芽衣子はトキタニへの復讐を誓ったのだ。

トキタニにつかませる獲物として、芽衣子は浮世絵を選んだ。

浮世絵の時代考証をするポイントのひとつは「色」だ。浮世絵は時代によって使われる色が異なる。熟練した鑑定士も、江戸期の特徴的な「色」を元に鑑定している。当時の色彩を再現するのは、現代のコンピュータグラフィクス技術なら可能になる。スキャナで取り込んだ画像の色彩を分析し、江戸期に存在した色彩のみ再現する。それだけで専門家でも見分けがつかない贋作が誕生する。元々大量に生産されていた「浮世絵」だからこそ可能な技術だ。

さすがに成分分析では判ってしまうが、裏の美術品取引の場で分析を行うほどの時間はない。

問題は「紙」だ。「紙」は目の肥えた人間が見れば複製だと一目で分かる。苦労して江戸期の「紙」に近い物を探してきたが、見る人が見れば複製だとわかる恐れがある。だから、希少価値の高い北斎の春画、しかも冊子を贋作に選び版木の写真とセットにしてトキタニに見せる。

これで金に目が眩んだトキタニを騙すことは容易に思えた。

しかし、

美術ブローカーMと称して、初めて見たトキタニの顔は、意外なほど若かった。
芽衣子といくらも変わらないのではないか?とさえ思えた。
しかし、裏の美術業界で”魔女”と恐れられた彼女のことだ。
その若作りの顔の下で、どんなあくどいことを考えているか知れたものではない。

無理に貫禄を出した話し方で、怪しまれるのではないか?

「君好みの品だと思ってね」

トキタニは意に反し、話にあっさり喰らいついてきた。
だが、模造品の写真を食い入るように見るトキタニの目は、噂で聞いていた美術品を金のために売り買いする”魔女”というより、純粋な美術好きな人間の目にみえた。ただの金の亡者を騙すことはたやすい。しかし、真に美術品を愛する人間の本物を見抜く審美眼は馬鹿にできない。

芽衣子はもう一つの仕掛けを用意した。

男に、トキタニに贋作を見せたらすぐにバスルームに誘うよう指示した。トキタニが「紙」の質に気づく前に男に誘われれば、好き物のトキタニは春画を置いてバスルームにいくだろう。

トキタニより先にバスルームから出た男は、赤い春画を撒き散らし血のりをつけて床に倒れる。血のりも落ち着いてみれば、偽者だとわかる恐れがあるが、人間は思いもよらない事態に直面すると思考の短絡に襲われる。赤い春画がばら撒かれているだけで、それが本物の血で刷られたように思い込んでしまう。赤い春画はコンピューターに取り込んだ画像を赤に変えれば何枚でも作ることができる。

トキタニは事件に巻き込まれることを恐れ、慌てふためいてホテルから逃げ出す。

芽衣子は、そういうシナリオを書いた。

小切手は男が既に受け取っている。
1000万円は、父の命の代償とすれば安すぎる。
しかし、それが今の私にできる、最大の復讐だ。
芽衣子はカバンの中で、偽造したスイートルームのカードキーを握り締める。






ドアの差し込み口にキーを入れると、実に素直にロックは解除された。
緑色のランプが点灯したのを確認して、芽衣子はゆっくりとドアを開けた。




そこには、

血まみれになったメイコが立っていた。
足元の男は一見して、もはや息をしていないように見える。



二人の「メイコ」は、赤い春画に囲まれて

見つめあったまま、声も出せずにいた。




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張退作は、読み終わって全身の毛穴が逆毛立つのを感じた。
青薔薇かをるは、張の「二人のトキタニ」に呼応するかのように、「二人のメイコ」の物語を書いてきた。
これはやはり冥界からの手紙なのだろうか.....
私は久しく禁じていた煙草に手を伸ばし、マッチで火をつけた。
赤燐の燃える香ばしい香りを嗅ぎながら、大きく煙を吸い込んだ。
煙はしばらくその場に漂い、やがてゆっくりと上がっていった。

続きを書くか....

張はそう考えてモニタに向かう。
しかし、しばし画面を見つめただけで、キーボードから指を離した。
短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
大まかな構想は頭の中に浮かんでいる。
しかし、それを文章にすることを止めた。


きっと

この物語の続きは

冥界から送られてくる事だろう。
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# by chotaisaku | 2004-09-30 00:06

長大な小説(御挨拶に代えて)


私は本を読むのが速い。
別に速読法などというものではなく、
ちゃんと文章を味わって読んではいるのだが。
人に言わせると、ななめ読みしているかのような
速さなのだそうである。

したがって、分厚い小説でも、何巻にも及ぶ
大河小説でも、あっと言う間に読了してしまう。

このことが、自分で書く小説を長大にしている理由かもしれぬ。
金を出して買った本ならば、出来る限り長く楽しみたい。
音楽のように何度も繰り返して鑑賞できるものならいざ知らず、
小説、ましてやミステリでは、よほどのファンでない限り、
一度読んだらそれまでであろう。

だから、私は読者の方々に向けて、常に長時間楽しめるような
作品を提供することを心がけている。

これからもそのために精進していきたいと思う。

そんな私の近況報告や、作品裏話、それに加えて
出版前の作品をいち早く読者の方にプレビューして
いただくための体験版などを、このブログにて
書き綴っていく所存である。

末永くお付き合いくださりますよう、よろしくお願いいたします。

                        張退作
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# by chotaisaku | 2004-09-17 14:43